自筆証書遺言の要件・作成方法について

1 要件・方法 

遺言者が遺言書の全文・日付・氏名を自書し、これに押印すれば遺言として成立します(民法968条1項)。

2 自書とは

自書したというためには、(1)遺言者自身の筆跡が分かる方法で、(2)遺言書の用紙に遺言者自身が直接書くことが必要です。

(1)筆跡が残らなければいけないため、、遺言者が話したことを他の人が聞き取って書く口述筆記の場合や遺言者がDVDに録画する方法で遺言内容を記録したとして、たとえ本人の真意や本人が作成したことが明確であったとしても、それは「自書」したとは言えません。遺言者がワープロ・パソコンなどで打ち込んで作成した場合も、遺言者の筆跡は分からないため、自書したことにはなりません。

逆に、遺言者本人の筆跡が分かる方法であるなら、使う筆記用具は決められていません。カーボン紙による複写の方法で作成されたものが、自書として有効と判断された例もあります(最判平成5年10月19日)。

(2)遺言者が直接書くという前提として、遺言作成時に、遺言者が自書するだけの能力があったかという点も問題となります。自書する能力とは、文字を知り、自らの意思で筆記する能力です。遺言者が書いている内容を自分で認識して書くことが必要なのです。遺言を書こうとしても、病気で視力・体力が衰えてしまい一人では字が書けないという場合に、他の人に手を添えてもらい補助を受けながら書いても、その手を添えた人の意思が介入した形跡のないことが筆跡から判定できる場合には、自書として有効とされた例があります(最判昭和62年10月8日)。

もちろん、遺言者本人が直接書く必要がありますので、遺言者が話したことを他の人が聞き取って書く口述筆記は自書したものとは言えません。

3 日付について

遺言に日付の記載が必要とされるのは、複数の遺言書がある場合にその先後関係を判断するためや遺言書完成時の遺言能力の存否を判断するためです。そのため、遺言が完成した年月日が客観的に特定できればよく、暦日でなくても構いません。例えば、「私の60歳の誕生日に」という記載でもよいのです。他方、「2015年3月吉日」という記載では、何日であるかの特定ができないので、要件を満たしません。

4 氏名について

氏名の記載は、遺言者が誰かという特定のために要求されます。遺言者が誰か特定でき、他の人との混同が生じないのであれば、氏名(フルネーム)でなくても、通称や芸名でも構いません。

5 押印について

押印は、自書の要件と同様に、遺言者の同一性やその意思の真正性を担保するために要求されています。

押印に使用する印象は、特に制限されていません。三文判でも構いませんし、指印でも有効です。

このように自筆証書遺言は、いくつかの要件・方法が定められているものの、証人や立会人などの第三者の立会いや公証人の関与が必要ではなく容易に作成できるのがメリットと言えます。その反面、筆跡などをめぐって遺言の有効性に争いが生じることもあります。

この記事は弁護士が監修しております。

東京中央総合法律事務所 弁護士 河本憲寿(東京弁護士会所属)
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