問題社員の発生を未然に防ぐ<職場の法的トラブルの回避のための予防的アプローチ>

近年、「問題社員」への対応が企業の大きな課題となっていますが、問題が顕在化してからの対応では法的リスクが高まります。本コラムでは、問題社員の発生を未然に防ぐための予防的アプローチと、それによる法的トラブル回避の方法について、法的観点から解説します。

1 就業規則の適切な策定と運用

労働基準法第89条に基づく就業規則の策定は、法的トラブル予防の基礎となります。特に以下の点に注意が必要です。

  1. ハラスメント防止措置(労働施策総合推進法第30条の2): セクハラ、パワハラ、マタハラなど、各種ハラスメントの定義と禁止事項を明確に規定します。また、ハラスメント行為に対する懲戒処分の基準も明記しましょう。相談窓口の設置や対応手順も就業規則に盛り込むことで、法的義務を果たすとともに、従業員の意識向上にもつながります。
  2. 情報セキュリティ(不正競争防止法、個人情報保護法): 営業秘密の定義や取り扱い方法、個人情報の管理基準を具体的に規定します。在宅勤務時の情報管理ルールや、SNSでの情報発信に関する注意事項なども含めることで、情報漏洩リスクを軽減できます。
  3. 副業・兼業(労働基準法第38条): 副業・兼業を認める条件や手続き、労働時間管理の方法を明確にします。競業避止義務や秘密保持義務との関係も整理し、会社の利益を守りつつ従業員の権利も尊重する規定を設けましょう。

2 労働時間管理の徹底

労働基準法第32条(労働時間)、第37条(時間外労働)の遵守は、過重労働や未払い残業代のリスクを軽減します。具体的には以下の対策が効果的です:

  1. 客観的な労働時間把握方法の導入: ICカードやPCログによる労働時間の記録を行い、自己申告制のみに頼らない仕組みを構築します。テレワーク時の労働時間管理も含め、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に沿った対応が求められます。
  2. 36協定の適切な締結と運用: 時間外労働の上限規制を遵守し、特別条項の濫用を避けます。労使での協議を通じて、実態に即した協定を締結し、定期的な見直しも行いましょう。
  3. 変形労働時間制や裁量労働制の適正利用: 対象業務や労働者の範囲、運用方法を明確にし、導入手続きを適切に行います。制度の濫用による長時間労働を防ぐため、健康管理措置も併せて実施しましょう。

3 均等待遇・均衡待遇の実現

パートタイム・有期雇用労働法に基づく同一労働同一賃金の実現は、従業員の不満軽減と訴訟リスク回避につながります。具体的な対応として以下の点が考えられます。

  1. 職務内容や人材活用の仕組みの精査: 正社員と非正規社員の業務内容や責任の範囲を客観的に比較し、不合理な待遇差がないか点検します。
  2. 待遇差の合理的理由の明確化: 賃金、賞与、各種手当、福利厚生など、項目ごとに待遇差の理由を整理し、説明できるようにします。
  3. 待遇に関する説明義務への対応: 従業員から説明を求められた際に、速やかに対応できるよう、待遇の決定方法や理由を文書化しておきます。

4 メンタルヘルス対策

労働安全衛生法第66条の10に基づくストレスチェックの実施は、メンタル不調による労災(労働者災害補償保険法)のリスクを軽減します。以下の対策が有効です。

  1. 定期的なストレスチェックの実施: 年1回以上のストレスチェックを確実に実施し、結果を適切に分析します。高ストレス者には医師による面接指導を勧奨し、必要に応じて就業上の措置を講じます。
  2. 職場環境の改善: ストレスチェック結果に基づく職場分析を行い、具体的な改善策を検討・実施します。長時間労働の是正や、ハラスメント防止など、組織的な取り組みが重要です。
  3. メンタルヘルス研修の実施: 管理職向けのラインケア研修や、従業員向けのセルフケア研修を定期的に実施し、メンタルヘルスに関する理解を深めます。

5 適切な人事評価制度

公平な評価制度は、降格や解雇の際の法的リスクを軽減します。以下の点に注意が必要です。

  1. 評価基準の明確化: 職種や職位ごとに求められる能力や成果を具体的に定義し、評価項目と基準を明確にします。主観的な評価にならないよう、できる限り客観的な指標を設定しましょう。
  2. 評価プロセスの透明化: 評価者訓練を実施し、公平な評価を行う能力を養成します。また、複数の評価者による評価や、評価結果の調整会議などを通じて、評価の偏りを是正します。
  3. フィードバックの徹底: 評価結果を従業員に丁寧にフィードバックし、改善点や期待を明確に伝えます。また、従業員からの異議申立ての仕組みも整備しておくことで、評価の納得性を高められます。

これらの予防的アプローチを総合的に実施することで、「問題社員」の発生を未然に防ぎ、職場の法的トラブルを回避することができます。しかし、各企業の状況に応じて適切な対応は異なるため、専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

当事務所では、これらの法的観点を踏まえた予防的アプローチの導入から、万が一トラブルが発生した場合の対応まで、一貫してサポートいたします。労務管理の法的問題でお悩みの際は、お気軽に当事務所にご相談ください。

 

この記事は弁護士が監修しております。

東京中央総合法律事務所 弁護士 河本憲寿(東京弁護士会所属)
東京中央総合法律事務所 弁護士 河本智子(第二東京弁護士会所属)
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