今回は,損害賠償請求権としての慰謝料請求権が相続財産に含まれるかについて検討します。
慰謝料とは,不法行為により財産以外の損害を被った場合における,財産以外の損害に対する賠償をいいます。
ここにいう財産以外の損害は,精神的損害を意味します。
慰謝料請求権が相続の対象になるのかについては,遅くとも大正時代には議論されていました。
判例は,当初,慰謝料は精神的苦痛を被った本人のみが請求できるものであり,相続の対象にはならないという判断をしてきました。
その後,被害者本人が慰謝料を請求する意思表示をした場合には相続の対象になると判断するようになりました。
たとえば,被害者が亡くなる直前に「残念,残念」と言った場合には,被害者が加害者に対して慰謝料を請求する意思表示をしたものとして,相続財産の対象とされました。
これに対し,「助けてくれ」と言った場合には,慰謝料を請求する意思表示がなされたものとはいえないという判断をした判例もあります。